BNCT”ホウ素中性子捕捉療法” がん治療の進化を視察

※長文です。
少し前になりますが、大阪府熊取町の京都大学複合原子力科学研究所に行ってきました。

がん治療の新しい形として、”ホウ素中性子捕捉療法”を研究されているものです。

研究施設について

もとは原子炉実験所であったのが、2018年に京都大学複合原子力科学研究所に改名されたものです。

施設は原子力関係という事もあり入口は警備員や受付等、他の大学施設とは少し雰囲気が違い、また撮影やメモについても禁止されているなど制限がありました。約33,000平米の広大な敷地に、いくつかの研究施設が点在する形で配置されています。

関西イノベーション国際戦略総合特区の施設で、スプリングエイトや「京」と並ぶ位置づけとなっているものです。

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)について

専門的な話は正直、あまり分からなかったので、わかる範囲でしかメモを取っていません。

BNCTは放射線治療に近いものの、従来のがん治療法と異なる選択的放射線治療という新しい手法で、ホウ素薬剤と中性子をつかって進めていき、がん細胞だけをやっつけることができるというもの。外部から照射して破壊するのでなく、ホウ素と中性子の反応で選択的に内部から破壊するため、影響も割と少ないとのこと。(他の放射治療だと体の外からビームを当て、焼いたようになるため正常細胞も傷つき、神経や脳への治療だと後遺症が残ってしまう。)

ホウ素中性子捕捉療法の利点として、PET検査により治療効果が予測できる事(ある程度どういった治療の効果が出るかが分かるため、やるかやらないかも判断が付きやすい)、照射範囲・治療範囲が広く取れる事(他の狭い範囲を照射する方法に比べ影響が低くなるため、広く照射できる)、再発がん・治療が難しいがんにも効果がが期待、また原則1回の照射で終了する事(他の手法だと1~2ヶ月間の入院・外来治療が必要だが、BNCTの実質治療期間は1日)などがあるようです。

治療の対象となるがんの種類として、悪性脳腫瘍・悪性黒色腫・頭頚部腫瘍・肝臓がん・肺がん・中皮腫・骨軟部肉腫などがあげられていました。

原子力の活用は原発だけじゃない

当日の説明では、原子力研究の社会での活用も話にありました。原子力というと、原発がクローズアップされがちですが、産業や医療、農業の分野でも活用されていて、この施設でも様々な研究がなされています。

日本における放射線利用の経済規模というデータ(平成17年度)では、業界全体で8兆9千億円。うち、半分(53.5%)が原子力エネルギーで残り4分の1が工業利用、17パーセントが医学医療利用1兆5千億円、3パーセント農業利用 2800億円となっている。

この後、原発がストップしたため、現在は全体として半分程度の規模となっているようです。
(2015年度は全体で4兆3700億円、工業利用は2兆2200億円、医療・医学利用で1兆9100万円、農業利用で2400億円とのことでした)

今後の課題

研究用原子炉(KUR)の使用済み燃料をどうするかという問題があるようです。
この辺りは省略します。

世界でも日本の実施件数は多い

この施設でのBNCT実施数は世界で最大の563件とのことです。

政策的な対応等で、やめたところも多いという話でした。

たとえば、フィンランド(314)は頑張っていたが原子炉を止めてしまったため、これ以上は増えない。

アメリカもやめたようです。

この施設が多い理由として、この研究は医者だけが集まっていてはダメで、原子炉や薬学などいろんな分野が集まるというのが大事で、中性子光学(研究所)、DDS化学(大学)、臨床(大学や研究所)そして企業が集積している関西だからこそ、という事でした。ちなみにJRR東海村だとこれまでに107件を実施されています。

研究から治療へ

ここは研究施設のため、これまで研究として活動が行われてきましたが、いよいよ治療施設として全国に2施設が開設、これからスタートしようという段階です。その2施設なのですが、1つは福島県は郡山市の南東北BNCT研究センター、もう一つは大阪府高槻市の大阪医科大学(!)関西BNCT共同医療センター(30年6月開設)です。全国で2施設のうち1つが大阪、しかもひらかた病院と縁の深い大阪医科大学がBNCTの施設をつくっているとは・・(ひらかた病院もがん治療で連携できないか)

BNCT手法が有効であっても、世界のがん患者数を考えた時に、年間100人~200人ではだめということで、病院に敷設できるようなものをつくるための研究も行われています。加速器を活用するもので、治験が最終段階にあるそうです。

質疑の時間できいたこと

この数年、原発に対する学生の意識変化が気になっていて、そのあたりを質問しました。

(回答の要旨)・大学院学生としては、あんまり変わってないように感じる。自分たちこそこうした分野でやらないといけない、支えるんだという意識があるのではないか。一方で、こうした研究を進めてきた学生は、産業界の就職先がない。

彼ら(学生)が物心ついたころというのは、科学技術に信仰があった頃であって、様々なことが起こったけれどもぐらつかないとは思う。しかし今育ってる世代は、反科学という感じを受ける、粘り強い議論ができないように感じる。果たして、冷静に科学的な議論が出来るのかどうか。そうした意味で、社会的に影響が起こるのはこれからだと思う。

世界的には最先端を走ってるものの、日本は原子炉・放射線・被曝と言ったことに対しての規制が厳しくなってきている。大学だと、これだけの施設があるところはいいが、他の軽微な施設の大学だと研究ができない。そうしたマクロな意味で研究教育が弱まりつつあると思う。

・・・というような話がありました。

今回、施設内を見学する中、また話をお聞きする中でさまざま学ばせていただきました。ありがとうございます。

BNCT自体は実用段階にきているということで、しかも大阪にも施設があることから、期待してみていきたいと思っております。